福岡地方裁判所 昭和42年(ワ)600号 判決
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【判決理由】被告高橋、同岡の責任
<証拠>を綜合すると、被告高橋は本件事故当日午後一〇時過ぎ頃福岡市内東中洲で訴外養父、同徳川を甲車に乗車させて久留米市へ向うべく国道三号線を進行中、福岡市比恵附近から雨が降り始め、やがてそれが激しくなつてきて、アスファルト舗装された道路が濡れてきたこと、同被告は本件事故地点の二キロメートル位手前から訴外奥田栄の運転する営業用普通乗用自動車(丙車)に追従していたが、本件事故地点の一〇〇メートル位手前から時速約五〇キロメートル位で進行中の丙車を追い越すため、甲車の速度を時速約六〇キロメートル位に加速して丙車の右側を進行し、追い越し終つた頃丙車の前方二、三〇メートル位でハンドルを左に切つてその前に出、ハンドルを右に切り戻したものの、急ハンドルと高速、折りからの降雨で濡れた路面のため甲車の後部がスリップして左右に動揺し始めたのに気付き、ブレーキを踏んだためさらにスリップして甲車の後部が左に旋回し、中央線をはみ出して対向車両の進路部分にその進行方向と同じような恰好まで旋回した結果、対向進行してきた被告岡運転の乙車に追突されたこと、一方被告岡は時速四三キロメートル位で乙車を運転し被告西鉄高速運輸の久留米営業所を出発して福岡市方面へ向い進行中、本件事故地点に近づいた際、乙車の進路前方に甲車を追い越す姿を認め、さらに追越の終つた甲車が自己の進路部分に入つたのを認めた途端、突然甲車の後部がスリップして旋回し、中央線を越えて乙車の進路前方に進入してきたので、慌ててハンドルを左に切るとともに急ブレーキを踏んだが間に合わず本件事故に至つたことを認めることができる。<反証排斥・略>右事実を綜合すると、本件事故は被告高橋が湿潤な路面のためスリップし易い状態になつていることをさほど考慮せずに高速で追越をする等の運転をした結果惹起されたものというべきであるから、同被告の過失を肯認するに十分であり、不可抗力ということは到底できないものである。そして、被告岡としては突然自己の進路前方に予想しない甲車が入り込んできたため、急ブレーキ等の措置にもかかわらず衝突を避け得なかつたに過ぎぬものというべく、同被告の過失はこれを否定せざるを得ない。のみならず、右事実からは同被告には過失がなかつたものというべきである。
従って、被告岡は本件事故につき責任がなく、被告高橋は右事故により原告らの蒙つた後記損害を賠償する責任がある。
被告西鉄高速運輸の責任
被告西鉄高速運輸が乙車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは同被告の認めるところであるので、次に免責の抗弁につき判断する。
本件事故が乙車の運転者である被告岡の過失によるものでなく、甲車の運転者である被告高橋の一方的な過失により惹起されたものであることは前認定のとおりであり、<証拠>を綜合すれば、被告西鉄高速運輸としては乙車にタコメーターを装着してその運行に関し注意を怠らなかつたこと、本件事故時の運行にも何ら異常な点の見受けられないことから乙車に機能上の障害または構造上の欠陥がなかつたということができるので、同被告の抗弁は理由があり、本件事故について責任を負わないものというべきである。
被告粥川の責任
民法第七一五条第二項の代理監督者というためには単に代表取締役の地位にあるというだけでは十分でなく現実に被用者の選任監督を担当している者であることを要すると解すべきところ、被告粥川が被告相互タクシーに代つて現実に被告高橋の選任監督を担当していたと認めるに足りる証拠はない。従って、被告粥川はいわゆる代理監督者にあたらない。
<証拠>によれば、被告粥川は被告相互タクシーの代表取締役であつたこと、被告相互タクシーは本件事故当時故障したタクシーのブレートをその都度取り外し新しい別の車につけていわゆるもぐりタクシーの営業運転をしたり、被告相互タクシーの運転手の中には交通事故を起したり、交通違反をする者が多いことをうかがうことができるが、だからといつてこれをもつて本件の場合被告粥川に取締役として被告高橋に対する指導監督の職務を行なうにつき重大な過失があつたとまではいえず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
結局被告粥川は本件事故につき損害を賠償する責任を負わないといわねばならない。(木本樽雄 富田郁郎 横田勝年)